ぶらり京都(2020年10月12日~10月13日)

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2011年4月23日24日の気仙沼

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    気仙沼市唐桑町にの甥一家が東日本大震災で津波の被害に遭遇。お見舞いに駆け付けた時の撮影。

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2020年9月10日 (木)

I can speak

太宰治の「I can speak 」は、ものの10分もあれば読める作品である。
短い文章のなかで、主人公「私」の背後にある状況と意識の流れが書かれているが、言わば「私」の他愛もないつぶやきといったところか・・・。

『碧眼托鉢』のなかで太宰は、自身を【頽廃の児、自然の児】と称し、「太宰治は簡単である。ほめればいい。太宰治は、そのまま『自然。』だ。」とほめてやれ。」と書いているから、「良かった!良かった!無垢なものに感涙する太宰治の心情・内面がそのままつぶやかれていて心に残る作品だ」と、とりあえず言っておくが・・・

そうは言うものの、そのつぶやきが「I can speak 」と、どうかかわっているのか?
深部を理解するために、状況背景から3つの部分(序破急)に分けてみた。

◆序(前文)
「くるしさは、忍従の夜。あきらめの朝。この世とは、あきらめの努めか。わびしさの堪えか。わかさ、かくて、日に虫食われゆき、仕合せも、陋巷の内に、見つけし、となむ。
 わが歌、声を失い、しばらく東京で無為徒食して、そのうちに、何か、歌でなく、謂いわば「生活のつぶやき」とでもいったようなものを、ぼそぼそ書きはじめて、自分の文学のすすむべき路すこしずつ、そのおのれの作品に依って知らされ、ま、こんなところかな? と多少、自信に似たものを得て、まえから腹案していた長い小説に取りかかった。」
この短い作品「I can speak 」はこうして始まる。

この冒頭部分から、主人公「私」のおかれていた状況背景をうかがい知ることができる。
東京文壇における自分のイメージは地に落ちていて、何もせずにブラブラしている自分を誰も信用しない、誰にも頼ることができないなかで、なんとか仕事を進めようと心機一転。
続く段落の「昨年、九月、甲州の御坂峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い出来ではない。」
ところが甲州は寒気堪えがたく、甲府へ降りて、街はずれの下宿屋を仕事場にした。

◆破(本文)
甲府の下宿屋から近いところにある製糸工場から聞こえる娘たちの合唱、とくにリーダーらしき際立っていい声の持ち主への関心が、この項の発端の部分になる。
その歌声によって、自分が今進んでいる道に希望を見出し、そうした気持ちを「恋、かも知れなかった。」で文章を展開させ、いよいよ「I can speak 」の最終部分に入る。

◆急(結末)
二月、寒いしずかな夜、その製糸工場の小路から酔漢の荒々しい声が聞こえてくる。
酔っ払った弟が、製糸工場で働く姉に一方的に話している様子だ。
その会話から察するに、姉と弟の間には確執があったと思われる。
己の道も定まらず、母親や周囲にも理解してもらえない弟。
季節はずれのレインコートを着る弟は、けっして裕福ではないと思われるが、夜学に通い英語を習っていると言うからには上昇志向を有しているのだろう。
「I can speak」、この愛らしいたった一言から聖書の一節が浮かび心を撃たれた「私」。
「はじめに言葉ありき。
言葉は神とともにあり。
言葉は神なり。
よろずのもの、これによりて成る。」(『新約聖書』-ヨハネによる福音書の冒頭)

酔漢の弟が「I can speak English. Can you speak English? Yes, I can.」と、話せること、声に出して発声できることに意味があるのだ。
苦悩し、葛藤しながらもつかむ微かな手ごたえに、明るい光を見出すことができるのだ。
主人公「私」は、その弟に自分を重ねあわせたのだろう。
冒頭の部分で「わが歌、声を失い・・・」とあるが、ここにきて、作家である「私」が失いかけていたわが歌や発声の回復に期待が持てるようになった。
この短い物語の根幹となるのは、主人公「私」が甲府の生活の中で、創作への回復と生きるための前向きな姿勢への予兆である。

あの夜の女工さんは、あのいい声のひとであるか、どうかは、それは、知らない。ちがうだろうね。」で、終わっている。

Kingiyo

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